1 はじめに
広島県の中山間地域である三次市、庄原市、安芸高田市では、人口減少や人手不足が深刻化する中、デジタル技術を活用した業務効率化が喫緊の課題となっています。特に製造業では取引先からEDI(電子データ交換)対応を求められるケースが増加し、小売業でもキャッシュレス決済やECサイト構築の必要性が高まっています。
しかし、これらの地域では専門的なITスキルを持つ人材の確保が困難な状況が続いており、既存の従業員のスキルアップが不可欠となっています。このような背景から、広島県は令和6年度、「ITパスポート取得支援補助金」を通じて、企業における人材育成を支援しています。
2 概要
県内の中小企業各社では、本補助金を活用した人材育成に大きな関心を寄せています。その背景には、従業員のITスキル向上が会社の将来を左右するという危機感があります。ここでは、補助金の具体的な内容について解説します。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/hcm-reskilling/ipasshojokin.html
①補助金額
みよしプレス工業(仮称)では、ITパスポート試験に合格した従業員に対して20,000円の資格手当を支給し、その全額を本補助金で賄っています。同社の総務部長は「資格手当の財源が確保できることで、より多くの従業員に受験を促すことができる」と話します。
中小企業の場合は1人あたり最大20,000円、大企業の場合は最大10,000円が補助されます。これは企業規模に応じて支援の濃淡をつけることで、特に支援が必要な中小企業により手厚い補助を行う狙いがあります。
②補助率
あきたかた食品(仮称)のケースでは、資格手当として15,000円を支給し、その全額が補助対象となりました。同社の人事担当者は「補助率が100%であることで、社内での制度導入の説得材料になった」と補助金の効果を評価しています。
補助金の支給額は、企業が実際に支払った資格手当の実費に応じて決定されます。ただし、支給額が補助上限を超える場合は、上限額までの補助となります。
③補助対象経費
庄原自動車部品(仮称)では、従来から月額の資格手当制度を設けていましたが、本補助金の活用を機に、合格時の一時金制度を新設しました。補助対象となるのは合格時の一時金のみであり、継続的な月額手当は対象外となります。
具体的な補助対象は以下の経費です:
- ITパスポート試験合格時の一時支給の資格手当
- 合格祝い金(社内規程で定められているもの)
- 資格取得報奨金
④補助対象者
三次精密機器(仮称)は、本社工場が三次市に立地する従業員80名の製造業者です。同社は補助金申請に先立ち、リスキリング推進宣言企業への登録を完了しました。人事部長は「宣言企業への登録を通じて、社内の人材育成方針を明確化できた」と話します。
主な対象要件は:
- 広島県内に本社・事業所等を有すること
- リスキリング推進宣言企業であること
- 法人格を有すること
⑤申請期限
安芸高田金属(仮称)では、年度内に5名の従業員の資格取得を目指しています。「令和7年1月31日の申請期限を考慮し、逆算して社内での受験計画を立てた」と担当者は説明します。
特に注意が必要な点として:
- 試験受験前の交付決定取得が必須
- 事業完了は令和7年3月末まで
- 予算額到達による早期締切の可能性
⑥申請要件
庄原木工(仮称)では、補助金申請にあたり、以下の要件を満たしていることを確認しました:
- 労働関係法令の遵守
- 風俗営業等の対象外業種でないこと
- 反社会的勢力との非関係
- 納税義務の履行
3 想定される活用事例
①問題点
三次金属工業(仮称)では、以下のような課題を抱えていました:
【デジタル化への対応遅れ】
主要取引先から、受発注のデジタル化対応を求められていましたが、従来の手書き伝票による管理を継続。その結果:
- 転記ミスによる納品トラブルが月平均3件発生
- 在庫管理の非効率により、適正在庫の1.5倍の在庫を保有
- 請求書発行に毎月3日を要する状況
【人材面の課題】
- 従業員の平均年齢が52歳と高齢化が進行
- ITに詳しい従業員が2名のみで、その2名に業務が集中
- 若手従業員のITスキル不足により、業務の属人化が進行
②補助金による問題解決
本補助金を活用し、以下の取り組みを実施:
【第一段階:人材育成計画の策定】
- 全社員のITスキル調査を実施
- 各部門から若手社員を2名ずつ選抜(計10名)
- ITパスポート取得支援制度を整備
- 合格時手当:20,000円
- 社内勉強会の実施
- オンライン学習教材の提供
【第二段階:資格取得支援の実施】
- 選抜された10名が試験受験
- 8名が合格を達成
- 資格手当として一人20,000円を支給(補助金で全額カバー)
【第三段階:業務改善の実現】
ITパスポート取得者が中心となり:
- 受発注システムを導入
- 発注ミスが月平均3件から0.5件に減少
- 在庫回転率が30%向上
- 在庫管理システムを刷新
- 在庫保有量を適正在庫の1.1倍まで削減
- 棚卸し作業時間を50%削減
- 経理システムを導入
- 請求書発行作業が3日から1日に短縮
- 事務作業の効率が40%向上
4 詳細な説明
①補助金額
三次金型製作所(仮称)では、本補助金を活用して5名の従業員のITパスポート取得を支援しました。同社の取り組みを具体的に見ていきましょう。
【制度設計のプロセス】
- 現状分析
- 従来の資格手当:なし
- IT関連有資格者:2名
- デジタル化の課題:納期管理システムの運用人材不足
- 支援制度の整備
- 資格手当額の設定:20,000円(補助金上限を考慮)
- 受験料会社負担:別途会社で負担
- 学習環境の整備:社内にPC学習スペースを設置
- 実施結果
- 5名全員が合格
- 補助金活用総額:100,000円(20,000円×5名)
- ROI:業務効率化により月間40時間の工数削減を実現
②補助率
庄原運輸(仮称)では、補助率を考慮した効果的な制度設計を行いました。
【具体的な活用事例】
- 制度設計段階
- 資格手当:20,000円(補助上限と同額に設定)
- 対象者:配車管理担当者5名を選定
- 予算計画:総額100,000円を想定
- 実施プロセス
- 事前申請により交付決定を取得
- 3ヶ月の学習期間を経て全員受験
- 4名が合格、1名が再チャレンジ
- 補助金受給
- 合格者4名分:80,000円を受給
- 再チャレンジ者:次回合格時に申請予定
③補助対象経費
あきたかた機械工業(仮称)では、補助対象経費を最大限活用するため、以下のような制度を整備しました。
【制度設計の詳細】
- 支給項目の整理
- 合格時一時金:20,000円(補助対象)
- 毎月の資格手当:5,000円(補助対象外)
- 受験料補助:10,000円(補助対象外)
- 社内規程の整備
- 「資格取得支援規程」の制定
- 支給基準の明確化
- 支給方法の明文化
- 経理処理の整備
- 専用の勘定科目設定
- 支給証憑の保管ルール策定
- 補助金請求手続きのマニュアル化
④補助対象者
みよし食品加工(仮称)では、補助対象者の要件を満たすため、以下のステップで準備を進めました。
【対応プロセス】
- 事前確認段階
- 本社所在地:三次市(要件適合)
- 従業員数:65名(中小企業に該当)
- 業態:食品製造業(対象業種)
- リスキリング推進宣言
- 人材育成方針の策定
- 宣言書の作成・提出
- 社内周知の実施
- 運用体制の整備
- 担当部署の設置
- 責任者の選任
- 報告体制の確立
⑤申請期限
庄原精密(仮称)では、申請期限を考慮した計画的な取り組みを実施しています。
【実施スケジュール】
- 準備期間(4-6月)
- 社内制度の整備
- 対象者の選定
- 学習環境の整備
- 実施期間(7-12月)
- 交付申請の実施
- 試験受験
- 合格者への手当支給
- 報告期間(1-3月)
- 実績報告書の作成
- 証憑書類の整理
- 補助金の受給
⑥申請要件
安芸高田製作所(仮称)では、以下の手順で申請要件への対応を行いました。
【対応手順】
- 要件確認フェーズ
- 法令遵守状況の確認
- 納税状況の確認
- 反社会的勢力との関係確認
- 書類準備フェーズ
- 履歴事項全部証明書の取得
- 納税証明書の取得
- 決算書類の準備
- 申請実施フェーズ
- 申請書類の作成
- 添付書類の確認
- 申請書類の提出
6 まとめ
広島県の中山間地域における企業のデジタル人材育成について、具体的な事例を基に解説してきました。最後に、各地域の特性を踏まえた活用のポイントをまとめます。
【三次市の事例から】
三次金属加工グループ(仮称)では、補助金活用により以下の成果を上げています:
- 人材育成の具体的成果
- ITパスポート合格者:12名
- 業務改善提案件数:月平均15件に増加
- 社内デジタル化プロジェクト:3件を開始
- 経営面での効果
- 受発注業務の工数:30%削減
- 在庫管理コスト:25%削減
- 新規取引先:2社獲得(デジタル対応が評価)
【庄原市の事例から】
庄原産業支援センター(仮称)によると、市内企業の活用で以下の傾向が見られます:
- 製造業での活用
- 生産管理システム導入:5社
- 品質管理データのデジタル化:8社
- オンライン商談対応:12社
- 小売業での活用
- ECサイト立ち上げ:6社
- キャッシュレス決済導入:15社
- 在庫管理システム刷新:4社
【安芸高田市の事例から】
安芸高田ビジネスパーク(仮称)入居企業では、以下の展開が見られます:
- 社内のデジタル化推進
- ペーパーレス化達成:7社
- クラウドサービス導入:12社
- リモートワーク体制構築:9社
- 新規事業展開
- オンラインショップ開設:5社
- デジタルマーケティング開始:8社
- IoT活用製品開発:3社
【補助金活用のポイント】
- 申請前の準備
- 社内規程の整備を綿密に行う
- 人材育成計画と連動させる
- 経営戦略との整合性を確認
- 実施段階での注意点
- 進捗管理を徹底する
- 証憑書類を適切に保管
- 従業員のモチベーション維持
- フォローアップ
- 合格者の知識活用機会の創出
- 社内プロジェクトへの参画促進
- 継続的な学習環境の整備
【行政書士への相談】
三次市、庄原市、安芸高田市の各地域で、以下のようなサポートを受けることができます:
- 申請準備段階
- 要件充足状況の確認
- 必要書類の洗い出し
- スケジュール設定支援
- 申請書類作成
- 記載内容のアドバイス
- 添付書類の確認
- 不備防止のチェック
- 実績報告
- 報告書類の作成支援
- 証憑書類の確認
- 報告期限管理
本補助金制度は、地域企業のデジタル化推進において非常に効果的なツールとなっています。特に人材育成面での支援は、長期的な企業価値向上につながることが期待されます。ぜひ、自社の状況に応じた活用をご検討ください。
なお、さらに詳しい情報や個別の相談については、広島県商工労働局人的資本経営促進課(TEL: 082-513-3414)までお問い合わせください。