事業承継・M&A補助金の専門家活用枠とは
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠は、M&Aを実施する際に専門家を活用する費用を補助する制度です。ここでは、補助対象経費や注意点などを詳しく解説します。
1. 補助対象経費の概要
専門家活用枠の補助対象経費は、M&Aの実施に直接関わる専門家の活用費用が中心となります。主な対象経費は以下の通りです。
- 謝金
- 旅費
- 外注費
- 委託費
- システム利用料
- 保険料
これらの経費は、補助事業期間内に契約・発注し、支払いが完了したものが対象です。補助事業完了後の実績報告で提出する証拠書類によって、金額や支払いが確認できる必要があります。
2. 具体的な補助対象経費
2.1 謝金
M&Aに関連して専門家に支払う費用が対象です。
- 弁護士への相談料
- 公認会計士や税理士へのコンサルティング料
- M&Aアドバイザーへの報酬
ただし、税務申告や決算書作成のための通常の税理士費用、訴訟のための弁護士費用は対象外となります。
2.2 旅費
M&Aに関連する出張費(交通費・宿泊費など)が対象です。
- 相手企業との交渉のための出張費用
- デューデリジェンス実施のための現地調査費用
ただし、タクシー代、ガソリン代、高速道路通行料金、レンタカー代、旅行代理店の手数料、通勤に係る交通費は対象外です。
2.3 外注費
M&Aに関連する業務の一部を第三者に外注(請負)するために支払う経費が対象です。
- デューデリジェンス(財務・法務・税務)の外部委託費用
- 企業価値評価の外部委託費用
2.4 委託費
M&Aに関連する業務の一部を第三者に委託するために支払う経費が対象です。
- M&A仲介業者への手数料
- ファイナンシャルアドバイザー(FA)への報酬
- デューデリジェンスにかかる専門家費用
- セカンドオピニオン取得費用
FA業務または仲介業務に係る費用については、「M&A支援機関登録制度」に登録された事業者による支援に係る費用のみが補助対象となります。
委託費の主な内訳例:
- 相談料
- 着手金
- マーケティング費用
- リテーナー費用
- 基本合意時報酬
- 成功報酬
- 価値算定費用
2.5 システム利用料
M&Aマッチングプラットフォームの利用に関する費用が対象です。
- M&Aマッチングサイトの登録料
- プラットフォームの利用料
- 成約手数料
2.6 保険料
M&Aに関連する保険の保険料が対象です。
- 表明保証保険料
3. 補助対象経費の注意点
3.1 M&A支援機関登録制度
FA・仲介費用については、M&A支援機関登録制度に登録された事業者による支援に係る費用のみが補助対象となります。中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築することを目的としています。
3.2 補助事業期間
原則として補助事業期間内に契約締結し、支払いが完了した経費が補助対象です。ただし、FA・仲介契約に係る委託費については、補助事業期間前に締結した契約であっても、補助事業期間内に専門家の支援を受け、中間報酬や成功報酬を支払った場合は対象となる可能性があります。
3.3 相見積の必要性
謝金と旅費以外の経費には、原則として相見積が必要です。ただし、以下の場合は不要となります。
- 選定先以外の2者以上に見積を依頼したが、全て断られ見積を作成できなかった場合
- FA・仲介費用において、専門家費用が中小M&Aガイドラインに定められたレーマン表以内の場合
- 成功報酬のみのM&Aマッチングサイト複数社に登録し、成功報酬のみを申請する場合
3.4 M&A未成約の場合
補助事業期間中にM&Aが成立しなかった場合、補助上限額が半減し300万円となります。また、基本合意に至る前に発生した経費(着手金など)は補助対象外です。
3.5 買い手支援類型の場合
M&Aが実現しなかった場合、原則としてデューデリジェンス費用のみが補助対象となります。
3.6 売り手支援類型の場合
株式譲渡でM&Aを行う際、支配株主や株主代表が交付申請を行う際は、対象会社と株主との共同申請が必要となります。
3.7 PMI(Post Merger Integration)費用
M&A後の統合プロセスにかかるPMI等の費用は補助対象外です。
3.8 支払い方法
補助対象となる経費の支払い方法は、「補助事業者の口座からの銀行振込」または「クレジットカード1回払い」のみとなります。
4. 補助率と補助上限額
4.1 買い手支援型(I型)
- 補助率:補助対象経費の2/3以内
- 補助上限額:600万円
- デューデリジェンス費用申請時:800万円
4.2 売り手支援型(II型)
- 補助率:補助対象経費の1/2以内
- 補助上限額:600万円
- デューデリジェンス費用申請時:800万円
- 赤字企業等の場合:補助率2/3以内
なお、M&Aが未成約の場合は補助上限額が300万円となります。
5. 補助事業の流れ
- 公募
- 交付申請
- 審査・採択
- 交付決定
- 補助事業の実施
- 実績報告
- 確定検査(交付額の確定)
- 補助金の請求
- 補助金の支払
6. 申請に必要な書類
- 交付申請書
- 補助事業計画書
- 認定経営革新等支援機関確認書
- 誓約書
- 反社会的勢力でないことの誓約書
- 事業承継・引継ぎ補助金に係る宣誓・同意書
- 申請者の決算書(直近2期分)
- 申請者の事業計画書等
- 経営資源引継ぎに係る契約書等
- その他事務局が定める書類
7. まとめ
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠は、M&Aを検討する中小企業にとって非常に有用な制度です。専門家の活用費用を幅広くカバーしており、企業の財務的負担を軽減しつつ専門的なサポートを受けられます。
ただし、補助対象経費や申請要件には細かい規定があるため、申請の際は公募要領を十分に確認し、必要に応じて事務局に問い合わせることが大切です。また、M&A支援機関登録制度に登録された事業者の利用や、補助事業期間内の契約・支払いを行うことなど、活用時の条件にも注意しましょう。適切に活用すれば、M&Aプロセスを円滑に進め、成功の確率を高めることが可能です。
8. 補足:M&A支援機関登録制度について
M&A支援機関登録制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組めるように設けられた制度です。登録されたM&A支援機関は中小M&Aガイドラインを遵守し、一定の基準を満たしていることが保証されています。主な登録要件は以下の通りです。
- 中小M&Aガイドラインの遵守を宣言する
- 料金表を提出する
- 顧客からの情報提供窓口を設ける
- 反社会的勢力との関係がないこと
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠を利用する際は、登録された支援機関の利用が必須となるため、制度を正しく理解し、要件を満たす支援機関を選ぶことが重要です。
以上が、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠における補助対象経費や注意点の概要です。M&Aを検討する中小企業の皆様にとって、少しでも参考になれば幸いです。